―――…母と会った後くらいからだろうか。
身体が妙にだるくて、父の仕事部屋に上がってからは、寒いのも合わせて、何だか身体中が冬眠に入ったように眠っていた。
夕方、マンションの最上階にある自宅に帰ってきた事も記憶にはなく、この分では如何やら父が連れ帰って来てくれたものらしい。
漸く起きたそこは、ゴウが最後に記憶している場所――――父の社長室ではなく、自宅の自分の部屋だった。













+++  Metamorphose ― 6 +++













枕元に置いてある時計は、何時の間にか日付が変わって午前7時を指し示し、窓はカーテンを引いてあるにも関わらず、朝特有の眩しい光が差し込んでくる。
ゆっくりと移動させた視線の先――――机の上には、一昨日の夜にメンテナンスをしたドランザーと、蓋が開かれたままのメンテナンスボックス。
それを暫しぼんやりと見つめ――――数分後、ダイニングの方から微かに聞こえた父の足音に、ゴウは我に返り、
ベットから立ち上がると、一つ伸びをしてから、ダイニングへと向かった。




「お早う…」
長い間眠っていた所為か、全身に軽い倦怠感を感じながら、ダイニングへと続く扉を開ける。
「お早う。……大丈夫か?」
「?」
何の事を言っているのか良く判らなくて、自分の顔を見るなり、開口一番そう言う父の顔を見返す。
「少し顔色が悪いようだが…?昨日も夕食を食べなかったしな」
「夕食?」
しゃがみこんで額に手を当ててくる父に問い直す。
…父曰く、如何やら昨晩の自分は相当眠かったのか、何度父が起こしても、最後まで意識を覚醒することなく眠ったままだったらしい。
『一昨日の夜は眠れなかったのか?』と父に問われたが、そのような事実は無い。
…確かに、一昨日は放課後に木ノ宮やリンとベイバトルをした日だから、アタックリングに付いた汚れを落とすべく、
ドランザーのメンテナンスをしていて、少し就寝時間が遅れた事は事実だが、それでも大した時間じゃない。
首を振って否定すると、父は立ち上がりながら今朝の体調を訊いてきたが、それにしてもごく普通の体調だと答えた。
フライパンの中のハムエッグを手早く皿に移しつつ、父は今日も学校を休ませるべきなのか悩んでいたようだったが、
ゴウはマコトがコールしてくる前に身支度を済ませ、鞄とドランザーを手にすると、家の玄関へと向かった。










「あれ?今日は早いじゃん」
マンションの玄関の自動ドアを出て、マンション出口へと向かっていたゴウの正面、正に今からコールしようと
駆け足でマンション入り口に入ってきたマコトと、ゴウはタイミングよく鉢合わせした。
『いっつも俺がコールしないと出てこないのにな〜』とケラケラ笑いながら、マンションの出口へと方向を変えたマコトの背に
一発蹴りを入れてから、ゴウはスタスタと出口に向かう。
「ぉうわぁっ!!!〜〜〜〜〜っテメ、危ないだろうがゴウ!」
そのままマンションの壁に顔面から突っ込んで、衝突しそうになったマコトが抗議の声を上げる。
「貴様のコールは近所迷惑だ。それに毎日コールされてから家を出ている訳じゃない」
「〜〜〜〜っ!あ〜もう判ったよ!!」
どこか不満そうな声で自棄気味にそう言い放ち、先に歩道を歩いていた俺の横にマコトが追いついてくる。
「昨日はつまんなかったからな〜今日は何か面白い事あるかな〜♪」
「昨日はリンも休んだのか?」
マコトの何気ない台詞に、ふと眉を寄せて訊けば、
「ん?いや、アイツは来たんだけどさ…ほら、お前との勝負、まだついてなかったろ?」
「あぁ、そう言えばそうだったな」
一昨日の夕方、公園にあるベイスタジアムで、ドランザーによって弾き飛ばされたドライガーを拾い上げながら、
『次は私が絶対勝つんだからぁ!』と人差し指を此方にびしっと突きつけながら声高に宣言した少女の姿を脳裏に浮かべた途端、
「早上好!!」
何の気配も感じていなかった背後から、脳裏に浮かんでいた当本人の声が上がった。
「「うわ!!」」
「…何よ。そんなに吃驚することないじゃない」
マコトと揃って慌てて振り返れば、其処に居たのは何処か険しくなった金瞳で此方を睨みつける、噂の当本人――――リン。
転入当初からチャイナ服で学校に通っている彼女は、転入初日から『お洒落』な人物だという認識が、クラス内は勿論、学年でも早々と定着しつつある。
彼女曰く、『家に父が持っていたシルク地の布地が沢山あるから、今は私がそれを譲って貰って、自分で服を作ってる』のだとか。
因みに今日の衣装は、両側にスリットの入った膝上丈の白いチャイナワンピースの下に、膝丈のスパッツ。
腰布は綺麗な紅色で、髪を束ねている紅い組紐と同じ組紐が、腰布と一緒に飾りのように風に揺れていた。
…恐らく、このワンピースも自分で作った服なのだろう。
「あ、いや…リンの気配、全然感じなくてさ」
「何よ、それ」
木ノ宮のフォローになっていない台詞に、『あたしが幽霊だとでも?!』と、更に目を吊り上げて怒り出した彼女は、
早々と身の危険を察知して学校の方へと逃げ出したマコトの後を猛然と追い始めた。
「あいつら…」
ゴウは深く溜息をつくと、身体中に感じる倦怠感を振り払うかのように2人の後を追い始めた。





…因みに、早朝からリンに追い回されたマコトが受けた『仕打ち』は、学校の休み時間にリンから『ベイバトル』という形で
ゴウにも現れる事を、今の彼は知らない。




















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