窓の外は蒼く、透き通った空が広がる、南領域『赤領』の朝。
カイがレイの部屋を退室してから、僅か数分で静寂は破られた。
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青月長石 ― 2 +*+
「今日こそは起きたかや?!!!!」
ノックも無しに突然開けられた内側の扉が、扉の裏壁下方に設置された激突防止にぶつかる鈍い音が響く。
左腕に白いレースのたっぷり付いた服らしき布の塊を抱え、紅い生地に大きな白牡丹の花が描かれた
ロングチャイナ服を着た長身の女性の珍客に、寝台の上に身を起こしていたレイは一瞬目を丸くし、
レイの腕の中の白虎―――今は少年の姿を取っている―――は、寝台に座ったままのレイの腕の中から飛び出し、
レイを庇うように立ち塞がった――――が。
「…白ちゃん?久しぶりね〜vvv」
ドアの前に仁王立ちに立っていた珍客―――朱雀―――は、自分の顔を確認して
一瞬虚を突かれた顔をしている白虎にそのまま抱き付いた。
「相変わらずフサフサの綺麗な白銀の髪ね〜vv今度その毛、ちょっとだけ分けて貰おうかしら?」
「あの〜〜……」
相変わらず白虎を抱き締めたまま、小さなバリカンを手に物騒な科白をさらっと吐く女性に顔を引き攣らせながら、レイがおずおずと話し掛ける。
「はい?何でしょう?…って、貴女!!!!」
「はい!?」
「ちょっと妾に付き合って貰うわよ!!!貴女が此処に来てから丸四日!只管我慢し続けてたんだから!!」
「は?…って、俺この部屋から出るなって言われて…」
「『善は急げ』よ!!早く!」
「え?あの、ちょ、ちょっとぉぉ!!!?」
…一応、朱雀の視線は自分の顔に向けられているが、果たしてソレは『今』の自分を見ているものなのだろうか。
がっしりと腕を掴まれ、抵抗するだけの体力がまだ戻っていないレイには朱雀の力に抗う事は出来ず、
唯一の頼りの白虎ですら、無表情な顔の何処かで深い諦めの表情を浮かべ、
朱雀に強行拉致されるレイの後を小走りに追って行った。
朱雀にレイが拉致されてから数分後。
「…あの莫迦御子っ……部屋から出るなと言っておいたのに、一体何処へ行った…!」
城の者にしか所持が許されない、赤領――――それも、火渡家の敷地内にある黄山の一部でしか採れない、
青い月長石―――ブルームーンストーン―――の首飾りが入った箱を握り締め、カイが声を吐き出す。
「見張りをつけておかなかったのは失態だったわね、カイ」
いけしゃあしゃあと意見を述べたのは、朱雀とは正反対の、黒い生地に紅牡丹の花を描いたロングチャイナ服を身に纏った、
朱雀と同じ顔をした長身の女性―――黒朱雀―――。
「どんなに小さな欠片でも良い。青月長石を身に纏っていなければ、この城を動き回るのは自殺行為。
カイの創った『符』が、『侵入者』に気付かない訳がない。
…早急に、神官様にあの御子の行方について、お伺いを立てた方が宜しいのでは?」
外観だけでも広大な敷地を誇るこの城で、所在が判らない者をただ闇雲に探し回るのは愚の骨頂。
今にも歯軋りしそうな位怒っているらしい主に、更に意見を付け足す。
「……カオルに会う。付いて来い、黒朱雀」
「御意」
…暫くの沈黙の後、黒いローブを翻して部屋の外を見据えたカイは、黒朱雀が側に控えた事に視線を向ける事も無く、
部屋の外、城の東に立つ尖塔へと足を向けた。
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