△月×日晴れ曇り

赤子は・・・良い。

ぷにぷにと柔らかいほっぺたをつついてやれば、明るい琥珀の瞳が笑みを象る。
愛らしい微笑みに常にポーカーフェイスの私の頬が微かに緩む。
ふわりと現れた(見掛けだけは優しげな)トウベエを見てきゃっきゃと笑う。
うむ、モンジュの子だけあって闘神士の素質もばっちりありそうだ。


「・・・マホロバ様・・・何をなさっているのですか・・・。」

振り向くと引きつった顔のモンジュが立っている。
む、もう戻ってきたのか。仕事の早いやつめ。

いつに無く素早い動作で赤子を抱き上げると、モンジュは険しい表情を私に向けた。



「ヤクモに良い影響を与えそうにないのでこれにて離反させていただきます。」



な、何だその冷ややかな目は!
まるで私が赤子に何かをしたとでも言いたげではないか!!

「・・・私に任せればお主以上の闘神士になるやもしれんぞ。」
「ご心配なく。ヤクモを闘神士にするつもりなど、これっぽっちもございませぬ。」

にっこり微笑むとヤクモに頬擦りしながら去ってゆくモンジュ。

くっ・・・。いつの間にやら逞しくなったではないか。わが弟子よ・・・。





「なぁ、モンジュが離反したって本当か!?」
「・・・まぁ、仕方ないきに。あの無表情で口を吊り上げたられた日には、赤子の命が心配になるんは無理なかろう。」
今のモンジュはヤクモ命だしの〜。
「ふん、くだらん。」


・・・・・。
・・・言っておくが弟子たちよ。私はこう見えても若い頃は大層モテたのだぞ。





○月○日雨

ヴオオオオォオン!!!

けたたましい機械音が静かに読書に勤しむ私の耳を貫いた。

「いゃっほー!!」

このうっとおしい雨の中、弟子の一人であるシラヌイの馬鹿でかい声が社に響く。
・・・まったく己の歳を考えて欲しいものだ。

「マホロバ様!!来てくれねぇか!」

シラヌイの声に仕方の無いヤツだと思いつつも私は腰を上げる。
こうみえても私は弟子思いなのだ。

「保護者の方ですか?」
「は?」
「困りますね〜。お子さんの教育はきちんとなさってくださらないと。」
いい大人がバイク盗むなんてみっともないですよ。

青い制服の警官は紙になにやら書きながら白い目を私に向ける。

私に髭の生えたお子さんなどおらん!!
というか、いい大人であるシラヌイにそんな事は言えば良いであろう!!

「罰金」
そういおうとした瞬間、警官はすっと手を出し目を細めた。
「・・・何・・?」
「ですから、罰金をお支払いください。」
「・・・シラヌイ!!」

「まーまー、そんな怒らないでくれよ。次は上手くやるからよ!」
『オーケーオーケー、細かい事でごたごた言わない。』
「お、たまには意見が合うじゃねぇか!」
『ハン!男ってのは懐が広くねぇといけねぇ。そうだろマホロバさんよ!?』

がはははは!!

・・・こ、この馬鹿弟子どもめ・・・!!
この世知辛い世の中、老後の心配をして何がいけないというのだ!!
しかも他人のポケットマネーを使わせておいて何だその態度は!大体私は何もしておらんぞ!!

手を突き出したまま動かない警官にしぶしぶがま口をパカッと開ける。

・・・・・・。
くぅ・・・ッ!今月は節約せねばなるまい・・・。


溜息を付きつつ去っていく警官の後姿を見て私は決意を新たにする。



この世は間違っている。
いつか、私がこの穢れた世界を白い清浄なる世界に変えてやるぞ!!