「モンジュ様」



 手招きして、日当たりの良い縁側を言葉少なに指差したイヅナにつられ。
 来週に行う予定の「抜き打ちテスト」の問題を考えていたモンジュは、足音を立てないよう気を付けながら、
そっと、西日が差し込む其処へ、訝しむ貌はそのままに向かえば………

 視線の先には。
 お世辞にも「行儀がよい」とは言い難い愛息と、その契約式神が、仲良く枕を並べて居て。

 隣から一緒に覗き込んでいるイヅナと、貌を見合わせて微笑み合うものの。
 寧ろ際限なく緩んでしまう頬は、とてもではないが生徒達に見られたくないと、心底思えるくらいに「締まり」とは縁遠くて。

 くすくすくす……と。

 至極楽しげな忍び笑いは、どちらともなく溢れてしまっていた。


 しかし………
 正体もなく無邪気に寝入るその姿に、マホロバの乱を経て精悍さを増したとは言え、
ヤクモが未だ「子供」なのだと改めて認識させられるようで。
 程なくして鎮まってしまった笑いは、何時しか、苦い悔恨と哀惜に満ちた吐息に変わっていて。

 心配そうに、見上げてくるイヅナの視線に気付くまで。
 ヤクモとコゲンタを襖の影から見下ろしたまま、モンジュは白くなるまで拳を握りしめて、鉄の味すら滲む唇を引き結んでいた。

 だが、其処に響いたのは…………




「俺の肉返せ、コゲンタぁ…………」
「……野菜も喰え、阿呆闘神士…………」




 互いの頬を、緩く握った拳で突き合う二人の「平和」な寝言で。

 自分ばかりが、情けなく何時までも引き摺っていてはいけないな……と、小さくかぶりを振ってから。
 隣で、敢えて何も言わず。
 自分とヤクモ達を優しい眼差しで交互に見つめている、慈愛に満ちたイヅナへ向かって。

 もう、大丈夫だ…………

 黄昏に染められた頬が、それ以上の朱に染まるほど澄み切った表情で、イヅナと。
 生涯で「たったひとり」と決めた愛妻が、その掛け替えのない命と引き換えに遺してくれた、
愛おしい……自分の「生きる証」でもある息子と。
 嘗ては契約式神として傍らに立ち、数多の戦いを共に駆け抜けた式神をゆっくりと見つめ直して。

 言葉の代わりに、自然と溢れてくる笑顔を。
 ……優しく。
 ひどく穏やかで、満ち足りた表情として見せるのだった。

















御題配布元: 『リライト』