「僕は…僕達は、負けるもんかぁっ!!」
青錫のツクモの攻撃を幾度も食らいながら、リクは必死で神操機を握って印を切った。
「これで手前も終わりだ!!」
コゲンタが陰陽剣『西海道虎鉄』を振り被り―――辺りは光に包まれた。
「コゲンタ…御免」
地流闘神士が去り、再び静かになった境内で、地面に座り込んでいたコゲンタの側に歩み寄って、リクは顔を伏せた。
「…ったく、ちょっとは落ち着けよな。…ま、お前の気持ちは判らなくはねぇけどよ」
病院で入院しているソウタロウ―――彼を昏睡状態に陥らせた元凶が目の前に居て、リクが黙っていられるとは思えない。
だが、だからと言って、感情に流されるがまま戦ったリクと今の自分は満身創痍の状態。
修行する為に此処にやって来た筈が、この状態ではとても修行する事など出来ない。
「…本当に、御免」
『コゲンタに怪我させた』と、両の拳を固く握って、相変わらず顔を伏せたまま小さく呟くリクの姿を見て、コゲンタは溜息を吐く。
『俺の契約者って、何でこう皆同じような行動取るんだろうなぁ…』
その昔、“アカツキ”と呼ばれていた頃の契約者も、今の“名”を与えてくれた琥珀色の瞳の契約者も。
…そしてリクも。
『皆、無茶ばっかりしやがる』
記憶の中の彼等は、性格の違いはあれど、行動はほぼ一緒だ。
一度“火”が付いたら何処までも突っ走って、無茶ばかりするくせに、式神に対する“思いやり”だけは絶対に忘れない。
「…ま、良いや」
そんな彼等だからこそ、契約を交わしたのだけれど。
「…コゲンタ?」
「さっさと帰ろうぜ。今日の修行はなしだ。俺もお前もズタボロだからな」
尻尾を振って土埃を払うと、コゲンタは一挙動で立ち上がる。
「修行は明日だ。今度こそ約束だからな…」
「コゲンタ。僕決めたよ」
「あ?」
「こんな酷い戦い方じゃなくて、少しでもコゲンタの負担を減らせるように……強くなる」
リクは俯いていた顔を上げて、コゲンタと視線を合わせて、毅然と言い放った。
「…期待してるぜ」
紫の瞳が強い光を湛えている事にコゲンタは微笑って…リクの肩を叩き、隣の神木へと背を預けた。
その“瞳”の輝きがある限り、リクは負けることは無いだろう。
過去に契約を交わした幾人もの闘神士達の“瞳”が、それを証明してくれている。
「よし、じゃあ手始めに…」
そう言って、ジャケットのポケットをあさり始めたリクは、程なくして財布の口を開いた。
「リク。何を…」
一抹の嫌な予感が過ぎ去って、思わず神木から一歩踏み出すと、
「朝、リュージ君も言ってたでしょ?まずは基礎体力から作ろうと思って」
『今日はスタミナ料理にするね』と邪気の無い笑顔をコゲンタに向ける。
「!止めろ!それだけは!」
料理の話題がリクの口から出た事で、白虎の式神の顔色は真っ青に変わった。
「何で?」
「それは…っ!」
“あの凄まじい調理方法では、マトモな食材ですらマトモで無くなる”
…正直にそう言う事も出来ず、喉から出掛かった言葉を無理矢理飲み込んだ式神をリクは不思議そうに見ていたが、
「大丈夫だよ。コゲンタの分もちゃんと作ってあげるから」
「要らねぇーっ!!!」
「我侭言ってちゃ強くなれないでしょ?」
「あ?いや、まぁ、それはそうだけどよ…;;」
「じゃあ決まり。…じゃ、スーパーに行こうか♪」
『〜〜〜〜〜〜〜;;』
頭を抱えて、声にならない悲鳴を上げつつ、神操機に戻った相棒の姿にくすりと笑ってから――――リクは神社の階段を駆け下りていった。
and more...