窓からは燦々と日光が降り注ぎ、縁側で猫が丸まって眠っていそうな…ぽかぽかと暖かい、穏やかな昼下がり。
リクは隣で胡座をかいて座っていたコゲンタに、前々から思っていた疑問を思い切ってぶつけてみる事にした。




「ねぇ、コゲンタ。…訊きたいことがあるんだけど」
「何だ?改まって」
口調は荒っぽいが、ちゃんと向き合って話を聞いてくれる相棒に、リクは内心クスリ、と笑ってから、笑顔で爆弾発言を繰り出した。
「ヤクモさんって、歳サバ読んでるの?」


……………一拍の後。
家中に響き渡る笑い声を上げ、次いで畳をばんばん叩いて、笑死寸前の状態に白虎の式神は陥った。
「何だよ!コゲンタなら真面目に話を聞いてくれると思ったのに!!」
「何を如何考えたら…そんな質問が出てくるんだっ…!」
ヒィヒィと苦しそうにまだ爆笑しているコゲンタを少し睨んで、リクは言葉を付け足す。
「だって、凄く落ち着いてるし…纏っている雰囲気がとても17歳には見えないし…」
『それに、前の陰陽大戦を終結させた闘神士だし…』と、小さく付け加えて、リクは押し黙った。
「ん〜…まぁ、確かにアイツは17歳には見えねぇな」
「でしょ!だから、サバ読んでるんじゃないかって思って」
「そうだな。リクの言う通りだ」
胡座をかき、腕組みをしたまま、コゲンタは自信満々に断言する。
「ぇえっ!じゃ、僕はヤクモさんに騙されてたの?!」
「アイツは確かにこの俺と一緒に前・陰陽大戦を終結させた。それは事実だ。
…だけどな、アイツの生まれは、実は平安時代だ」
「えぇ!?じゃ、今から何年前の生まれになるんだっけ?!…えーと、えーと…」
頭を抱えて歴史年表を頭の中に広げ出したリクを尻目に、コゲンタの説明は続く。
「ヤクモの父親も闘神士だったが、世間一般では『陰陽師』を名乗っていたんだ。
闘神士であることを世の中に広く知らしめる訳にはいかねぇからな」
「うん!それで!?」
脳内年表を遡るのは止めたのか、目をキラキラさせてリクが話の続きを請う。
「ヤクモの父親…モンジュも天流闘神士として、伏魔殿の鬼門を守護していたんだが、
その時に一騒動あってな…モンジュの一人息子、つまりヤクモが、ある日忽然と、闘神機と一緒に消えた」
「…え?」
「その時俺はヤクモと契約していたから、闘神機と一緒にヤクモが居なくなった以上、
俺もずっとヤクモの側に居たんだが…いや、あれは大変だったなぁ……」
「独りで思い出に耽らないでよ!」
「ん?あぁ悪い;…で、ヤクモと俺が飛ばされた先ってのが江戸時代でな」
「全然時代が違うじゃないか!」
「だから大変だったって言ってるだろ。其処でも地流派の連中は、天流だと知れた途端に襲ってくるし、
俺もヤクモも必死で戦って…また突然、別の世界へ飛ばされた」
「今度は何処に?」
「桃山時代」
「…えーと;」
「あの時代で5年ぐらい過ごしたっけな〜…居心地は悪かねぇが、他の式神が何かと喧しかったな」
「へ、へぇ〜…」
「ま、そんなこんなであっちこっちの時代に飛ばされ捲って、今に至る訳だ。
当然、彼方此方の時代に飛ばされてる間も歳は喰うからな、今のヤクモはあぁ見えて実は800歳だ!」
「嘘っ!」
「“信頼”の式神が嘘付いて如何するんだ」
「え?いや、まぁそうだけど…でも……」
「まぁ、彼方此方の時代を行き来した分、若作りしてるからなぁ〜…」
ケタケタ笑って尻尾の先の鈴を軽やかに鳴らし、如何やら神聖視していたらしい
『生きた伝説』『最強の闘神士』のイメージが総崩れになったのか、頭を抱えて唸っているリクを見ながらコゲンタは笑い、
「…へぇ。コゲンタは何時からそんなに口が上手くなったのかな?」
コゲンタの背後に、『最強の闘神士』がゆらりと姿を現したのは、まさにその時だった。



「や、ヤクモ……?」
ぎぎぎぃっ……と音でも鳴りそうな鈍い動作で、背後を恐る恐る振り返ったコゲンタの背後には、
『爆』の闘神符を4枚、扇のように指の間に挟んでにっこりと微笑うヤクモの姿。
「…リク」
「はっはい!?」
「コゲンタ、ちょっと借りてくね」
にっこりお兄さんスマイルを振り撒いて…
何時の間にか、背に『黙』『縛』の2枚の闘神符を貼られて身動きが取れなくなり、
顔を真っ青にして―――元々青白いが―――何やら契約者に助けを求めているコゲンタの首根っこを掴まえて、
ヤクモは廊下へコゲンタをズルズル引き摺って、部屋を去っていった。




…暫くの後、庭の端で、断末魔の叫びと同時に盛大な爆発音が響いたことは、言うまでも無い。




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