[PR] この広告は3ヶ月以上更新がないため表示されています。
ホームページを更新後24時間以内に表示されなくなります。












京都郊外・太白神社 吉川家縁側。



「や~可愛いな~v」
先程まで庭先を箒で掃いていたクセに、縁側に置いた揺り籠から小さな拙い声が上がったのを聞きつけた途端、
いい歳してスキップなどしながら飛ぶように縁側に舞い戻り、
脇に箒を立て掛けたまま、縁側に座って『超』が付く笑顔で揺り籠を揺らしているのは、この太白神社の宮司・吉川モンジュ。
揺り籠の中の主は勿論、半年前に生まれた吉川家長男『ヤクモ』。
小春日和でぽかぽかと暖かい陽気の所為か、先程からモンジュにぷにぷにした頬っぺたを突付かれているのだが、一向に起きる気配はない。
昔から『寝る子は育つ』と言うくらいだから、恐らく此方の予想を裏切らない将来が待っている事も何となく判る。
…併し。




「前々から子供好きってのは分かってたけどよ…」
『幾ら何でも猫可愛がりし過ぎだろ!』と、モンジュの頭の上に圧し掛かっていた霊体のアカツキは呆れた声を出した。
「あんまり構い過ぎると、『鬱陶しい』ってそのうち嫌われるぞ」
「大丈夫!あと最低4年はその心配はない」
『子供の人格の下地が出来るのは三歳、大まかな人格が決定するのは十歳だ!』と、
根拠があるのか無いのか今一つ判らない裏付けを言いつつ、はっはっは、等と愉快そうに笑いながら、思い切り自信満々に言い切る己の闘神士の姿に、
何とも言えない、呆れた感情と表情を浮かべて、アカツキは一つ溜息を吐いた。

「…ま、確かにコイツは紛れもなくモンジュ、お前の子だ」
「…妻が浮気したと今まで思っていたのか、アカツキ」
「違う!断じて違う!;」
先程から、背後で小花が散っている心象風景を展開していたモンジュの背景が一転して急にドス黒くなり、殺気立った声が上がる。
今は霊体状態だから直接自分に触れられる事はないが、降神の命令が出れば拒否する事は出来ない。
そして降神してしまったら、まず自分の命が危うい。
…妖怪や他の式神との闘神戦なら兎も角、自分の契約者にボコボコにされるなど、真っ平御免だ。
微妙に真っ青になったアカツキは、慎重に言葉を選びつつ、弁明の言葉を紡いだ。


「吉川特有の『気高い闘神士の血筋』。…それを、コイツから感じる。
…きっと、お前のように、コイツも良い闘神士になるだろうよ」
モンジュの肩越しにヤクモの顔を覗き込みつつ、白虎族特有の白黒の縞模様の尻尾をゆらゆらと揺らめかせながら、アカツキは断言した。
「…そうか。ヤクモと節季が同じアカツキにそう言ってもらえるなら、確実だな」
「…とは言え、コイツが何処まで闘神士の修行を頑張るかが、一番重要なトコロだけどな」
「それは流石にもう少し経たないと判らないなぁ…」
「あぅ~…」
苦笑するモンジュの横、揺り籠の中から拙い声が上がり…つられるままに2人が視線を向けた先には、
何時の間に目を覚ましたものか、目の前でゆらゆら揺れているアカツキの尻尾を掴まえようとしているのか、両手を宙に伸ばして笑うヤクモの姿。

「…コイツ、俺の姿が視えてるのか?」
「…そう、みたいだな」
『アカツキの尻尾が気に入ったんじゃないのか?』と笑いながら呑気にのたまう己の闘神士の科白に、更にアカツキは溜息を零し、
「そうだ、アカツキの尻尾の先に鈴でも付けておけば、ヤクモのメリー代わりになるな~」
『我ながら良い事を思いついた』と、ポンと手をひと叩きして一人満足そうな顔をするモンジュの科白に、
「なっ!冗っ談じゃネェ!!」
『俺の尻尾は玩具じゃネェ!!!』と毛を逆立てて頭上で叫ぶアカツキに、
「冗談だって。…でも、こう、想像してみると尻尾に鈴が付いてるのって中々可愛いぞ、アカツキ」
「んなコト想像すんな!!」
「はっはっは。まぁ良いじゃないか」
「良かねェ!!」
絶叫するアカツキを余所に、中途半端に掃き清められた庭先に雀が数羽舞い降り、暖かい風が縁側に吹き込んだ。






…小春日和の平和な『ヒトトキ』。
併し、何時の世も闘神士と式神に、平和な『ヒトトキ』はそう長くは続かない。
僅かこの数ヵ月後に『関西空港事件』が発生――――彼等が交わした『“信頼”の契約』は強制的に解除され、『永遠の別れ』が訪れる事となる。




and more...