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午後15時・京都駅。



 「じゃあな、リク」
 「また近いうちにお会い致しましょう、リク様」

改札口の前でボストンバッグを床に下ろし、ポケットから切符を取り出したリクは、

 「うん。…ヤクモさんにも宜しく伝えてね。ソーマ君、ナズナちゃん」
 「判った!」
 「判りました。ヤクモ様も、『見送りに行けなくて済まない』と仰っておられましたから」
 「!良いよ、見送りだなんて。太白神社でヤクモさんには会えたしね」
 「リク!先に行くぞー」

慌てて『とんでもない!』と手を振るリクの背後、先に改札口を通ったリュージの呼ぶ声が聞こえ、

 「判った。
…じゃあね、2人とも」

床に降ろしていたボストンバッグを再び左手に下げ持ち、右手で切符を改札に通す。
改札の向こうで再び振り返ったリクは、改札口前で大きく手を振る小さな闘神士達に手を振った。




発車を告げる警笛が鳴り、列車の扉が閉まる。

 「また来たいねぇ~京都」

早々と列車に乗り込み、ボックス席を確保していたリナは、バッグの中の荷物を整頓しながらしみじみと呟き、

 「今度は普通の旅行で来たいね~…あ、リッくん!」
 「お、やっと来たか」
 「御免皆。待たせちゃって」

棚の上にボストンバッグを置くと、ペットボトルのお茶だけを手元に残して、リクは空けられていた窓側の席へと座る。

 「気にすんなって。天神町に帰ったらまた特訓だからな!」
 「ま、まだやるのリュージ君…」
 「おうよ!当ったり前じゃねぇか!!」
 「練習もうイヤ~~~!;;」

リクの斜め前に座ったモモは、合宿中何度叫んだか判らない叫び声を再び上げた。



 『…京都を離れるのは淋しいですか?リク』

極神操機から霊体で姿を現したバンナイは、列車の窓の外をぼんやり眺めていたリクに話し掛けた。

 「バンナイ…うん。そうだね。淋しいのかも知れない。
…でも、また近いうちに来れると思うから。
その時には、父上と母上の居た、天流大鬼門跡へ行って…2人に挨拶しようと思ってる」

動き出した列車の窓の外を急速に流れていく京都の街並みを見つめながら、リクは穏やかな笑みを浮かべて微笑んだ。










午後17時半を超えたとは言え、気温はまだ高く、頭上を覆うように生い茂る木々の隙間から見える空は、茜色が差し始めているものの、木漏れ日もまだ明るい。
新太白神社を出たのは16時だった筈だから、彼此1時間半は山中を歩いている事になるが、2人の足取りは一向に疲れなど見せない。
…併し。

 「…北条。本当に大丈夫なのか?」
 「まだ言ってるの?大丈夫だって言ってるじゃない」

眉を顰めて此方を心配そうに見るヤクモの顔は冴えず、むっとして言い返しても尚表情を変えない彼に思わず溜息が零れる。

 「確かに2日前に日中に無茶したのは認めるけど…でも、ヤクモの方が無茶し過ぎだって事忘れてない?」
 「確かに俺も無茶はしたけど…俺は年中伏魔殿に篭ってるから、多少現世で無茶しても何とかなるけど、北条は違うだろ?
第一、今日の朝まで熱あったのは北条の方だし…」
 「…さり気無く差別に聞こえるわよ、その科白」
 「ごっ御免!そんなつもりは…!」
 「くっ…あはははは!!!」
 「ほ、北条…?;」
 「大丈夫よ。…確かに、今は闘ったら何時もより疲れるのが早いかも知れない。…でも、これ以上放置しておく事も出来ないの。
予定以上に日数経っちゃったし、例え1日でも1時間でも、現世に野放しにする時間が多ければ多いほど、何の関係もない人達が襲われる確率が高まるんだから」
 「…判った。出来る限り手伝うから、無茶はしないでくれ」
 「あら、無茶してもヤクモが連れ帰ってくれるんでしょ?」

『前例もあることだしね~』と、あっけらかんとケラケラ笑って言い放つ彼女に、一気に脱力したヤクモは溜息を付く。

 「でも、一つだけお願いがあるの。
…妖怪が出ても、出来るだけ殺さないで。そのまま、伏魔殿に還してあげて。
例え妖(あやかし)と言えど、命あるものから生を奪いたくないの」
 「……判った。でも、人を襲ったり、人を傷付けた妖怪は倒す。
人の血肉の味を覚えた妖怪は、伏魔殿に送っても人を襲う。
そんな妖怪が再び鬼門から現世に溢れ出たら、そっちの方が危険だ」
 「判ってる。それは仕方のない事だから。私だって、闘神士として一番守るべき義は忘れてないわよ。
……さてと、お話は此処までよ」
 「あぁ」
 「じゃ、行くわよ!」
  
 「「式神・降神!!」」

紅白の闘神神具を構えた2人は、同時に式神を喚び出した。





二手に分かれた道の前にやって来ると、

 「私は左側へ行くわ。ヤクモは右側ね。
私はこの先、闘神符で結界を二ヶ所張るから、ヤクモは三ヶ所結界を張って頂戴。
そこに追い込めば、丸ごと還しやすくなるから」
 「判った」
 「じゃ、また後で」

そう言ってナナは降神した朱雀と共に、一目散に左側の道を掛けて行く。

 「…ヤクモ様?」

傍らに立っていたブリュネが主の冴えない顔に不思議そうに見下ろすものの、ヤクモはその場から動こうとせずにナナを見送るだけ。

 「如何かされましたか?」
 「…いや、ちょっと嫌な予感がしただけだ」

眉を顰めて顔を歪ませたヤクモは、ふるふると何かを振り切るように首を振ると、

 「嫌な予感、でありますか?」
 「何でもない。根拠のない直感のようなものだ。
…でも、万一があってはいけない。急ごう」
 「了解であります!」

懐から取り出した3枚の闘神符を構え、ヤクモは右側の道を駆けて行った。



 「…ナナ」
 「何?コマチ」

自分の正面を走っていたコマチが、少しだけ走る速度を落とし、声を顰めてナナに話し掛ける。

 「如何して言わなかったの?」
 「…何が?」
 「闘神符で結界を張るのは別に良いの。あたいを使ったら、きっと妖怪を殺しちゃうだろうしね。
だから、ナナはあたい達の方に女郎蜘蛛の子供達を誘い込む“入り口”を作って、誘い込む為の“囮”を結界の真ん中に配置する気なんでしょ?」
 「…何時から気付いてたの?」
 「ついさっき。ナナが、『こっちへ行く』って言って、自分が二ヶ所闘神符で結界を張るって言った時から」
 「…ヤクモが素直に私の言葉を受け取ってくれてるなら、ヤクモは私の張った結界に任せた結界を繋げてくれる筈。
それで良いのよ。彼には借りを作りっぱなしだから、これ以上甘える訳にはいかないの。
…元々、これは私達2人がやらなきゃいけない仕事だしね」
 「…あたいはナナを守るから、無茶しないで」
 「判った。私も、もう二度と大切な相棒を失いたくないから、無茶はしないわよ」

苦笑しながらナナはコマチにそう言うと、足を止め、周囲に生えている木の中でも一際幹の太い木を依代に選ぶと、闘神符を放った。












 <UP:05.9.23/Re-UP:06.3.18>