新太白神社・本殿。
太極神を祀った神殿の最奥、祭壇の周りを綺麗に掃除していた3人の耳に、隣接する吉川家の方から硝子が砕け散る甲高い破砕音が聞こえたのは、
祭壇の掃除を始めて間もない頃の事だった。






一瞬顔を見合わせたモンジュとイヅナがすぐさま踵を返して駆け出し、続いて歩幅の異なるナズナが慌てて2人を追う。

 「大丈夫か?!」
 「「大丈夫ですか?!」」

数分後に3人が飛び込んだ吉川家の台所は、床一面に割れた窓硝子の破片が散乱し、入り口付近以外は足を踏み入れる事は出来ない。
台所を見回せば、部屋の隅には、硝子の破片からナナを庇うように座り込んでいるヤクモと、救急箱を手にしたナナの姿。
そしてその横では、何故かシクシクと泣きながら硝子の破片を摘み上げては塵取りに移すブリュネと、
無言のまま箒で塵取りに硝子の欠片を掃き込んでいるコゲンタを監督するように、零神操機から霊体姿で2体を睨んでいるタンカムイの姿。

 「一体何があったのですか?!」
 「それが、俺達にもよく判らなくて…」

台所の惨状に一様に目を丸くしている3人の方へと振り返り、苦笑するヤクモの頬には一筋の血が流れていて、

 「ヤクモ!そっち向いてたら治療できないでしょう?!」
 「…はい」

目が据わっているナナの一喝に、再びビクリとたじろぐヤクモの姿は酷く目新しくて――――目を丸くしているナズナを他所に、
モンジュは床を転がっていた野球ボールを拾い上げた。

 「窓を割ったのはボールだな。随分と勢いをつけて投げられたみたいだが」
 「そうですね…普通に投げられたにしては、随分と破片が飛び散ってますし」

溜息を付いて、硝子の破片を拾い上げるイヅナ。

 「投げたのが誰であろうと、許すつもりは無いわ。…はい、もう良いわよ、ヤクモ」
 「有難う」

慣れた手付きで消毒を行い、きちんとガーゼを当てて治療を終わらせたナナは、ヤクモの言葉に少しだけ微笑うと、救急箱を閉じ、

 「あぁそうそう、お礼を言いそびれちゃってたわね。
―――…えぇっと、タンカムイ、だっけ?救急箱を取って来てくれて有難う」

降神している白虎と青龍を監督していた霊体のタンカムイにきっちりと頭を下げてお礼を言うナナの姿に、

 「構わないよ。ヤクモが傷付けられた事に対して怒ってるのは僕も同じだし」

歯に衣着せぬ彼らしいはっきりとした物言いで、未だ判らぬ犯人にタンカムイは宣戦布告を上げた。





ヤクモとナナの周りの硝子がコゲンタとブリュネによって取り除かれ、床から立ち上がろうとした2人の前に、闘神符が1枚、破れた窓から飛び込んできた。

 「!」

一瞬身構えたモンジュとヤクモだったが、

 「大丈夫よ。私が放った符だから」

先程ナナが破れた窓から放った数枚の闘神符のうちの1枚が、主であるナナの元に舞い戻ったらしい。
『見』という呪が込められていた符はナナの手の中で仄かに光り―――…


 『…マサオミさん、あれ、一応ボート部の備品なんですけど……』
 『…あれ?そうだったの?』
 『そうですよ!然もこれから夕方まで特訓で使うボールです!!無くしたら僕がリュージ君から怒られるじゃないですか!』
 『御免御免。…じゃあ…キバチヨ、何処まで飛んだか判らないか?』
 『如何だろうね〜かなり飛んだみたいだし』


 「犯人はあの馬鹿か…」
 「コイツが犯人なのね…」

闘神符『見』が映し出した『犯人の映像』を見て、ドロドロした陰鬱な雰囲気を纏わせたままクックックッと不気味に笑い始めたヤクモとナナの姿に、
タンカムイを除いた他の5人がビクリとたじろぐ。
目を光らせて、顔をつき合わせて何事か相談し始めた息子達の姿に、

 「…アカツキ、一体何があったんだ?あの2人は…;」
 「…さぁ、あの2人の後見人のお前が一番良く判ってるんじゃないのか…?;」

共に引き攣った表情と声で囁くモンジュとコゲンタの姿が其処にあった。












 <UP:05.8.14/Re−UP:06.3.5>