リクとソーマが呆然と見送っている事に気付く余裕も無く、一目散に太白神社から慌ててバイクで走り去るマサオミのドライブホルダーに仕舞われた極神操機から、
霊体状態でキバチヨは顔を出した。
『…マサオミ君』
「な、何だ?キバチヨ」
先程から引き攣った顔をしたままのマサオミを見て目を細め、
『流石に悪い事したとか考えてる?』
「…一応、な。
つーか、吉川をこれ以上怒らせるのは得策じゃないだろうしな〜…」
深い溜息を付きながらマサオミは京都市内に向かう道にバイクを入れ、
『で、如何する?』
「…お詫びの品でも買いに行くよ、これから」
『ん〜…でもさ、さっき丼買った所為で、随分財布軽くなってなかったっけ?』
「げっっ!!」
『忘れてたんだろ?マサオミ』
「いや〜…はははは………如何しよう…」
影を背負って更に引き攣った顔をするマサオミの顔を見て、
『…素直に謝る?』
「その前に吉川に瞬殺される…」
『あの陰陽大戦の中生き残ったのに、今更吉川の手に掛かりたくなんかない〜っ!!』
両手が自由であったなら、頭を抱えて叫びそうなマサオミの姿に、
『ボクは素直に謝るのが一番良いと思うけどね〜…』
肩を竦めながら、如何にも“人望”を司る式神らしい科白をキバチヨは零したのだった。
午前9時過ぎ。
「…本当に宜しいのですか?」
玄関に腰を下ろし、財布の入ったバッグを脇に置いて靴を履き始めたナナの背後で、イヅナが困惑顔を見せる。
「良いの良いの。…タダ飯食らいは嫌だし、買い物くらい喜んでやるわよ。
どうせならヤクモにも手伝ってもらった方が早いし…その為には、さっさと身体治してもらわないとね」
『借りは返す主義なのよ、私は』と言い切る姿は、6年前の陰陽大戦時に、ヤクモが気を失った彼女を連れて帰って来た時から一向に変わらない。
靴を履き終えてすっくと立ち上がったナナの姿に、イヅナは小さく笑うと、
「…では、宜しくお願いします、ナナ様」
「任せて。…あぁそうそう、さっき部屋を覗き見てきた時にはまだ寝てたけど、もしヤクモが起きてきそうだったら、殴ってでも寝かせておいてね」
「な、殴る…ですか;」
「そう。そうでもしないとあの莫迦はまた起きてくるしね…
じゃ、行ってきます。…絶対に、デパ地下の食肉コーナー・先着20名様限定78円の特上ロースをGETするから!」
朝刊の折り込み広告で見付けた『お買い得情報』のチラシを片手に持ったままのナナはそう言って、玄関の扉に手を掛ける。
「いってらっしゃいませ。…では、期待してお待ちしておりますわ」
「任せて!」
ぐっと握り拳を作ると、ナナは少しずつ気温の上がり始めた京都市内のデパートへと出掛けて行った。
「ん〜…これなんかどうだ?キバチヨ」
開店して直ぐに入ったデパートのギフトコーナーで、3000円程度の素麺のギフト箱を手に取ったマサオミは、小声で隣に浮かぶ半透明の相棒に話し掛けた。
『良いんじゃない?…でも、大きさから推定した値段で、品の程度がバレると思うけど?』
小さく首を傾げながら、遠回しに『安物の素麺じゃないのかコレ?』と、一応言っておくべき事だけは言っておくキバチヨだったが、
「ん?その辺は誤魔化すから大丈夫♪…よし、じゃあコレで決定だな〜」
軽やかな足取りでレジの方へ向かいながらも、購入後は新太白神社に向かわなければならないという事を態と意識外に追い出し、
極力考えないようにしているらしいマサオミの姿に、キバチヨは小さく溜息を付くと、極神操機の中に姿を消した。
「いらっしゃいませ」
にこやかな営業スマイルを見せるギフトコーナーの店員に、
「この素麺の箱で」
「畏まりました」
「あ、その箱の包装紙なんですけど、もう少し高級そうに見える包装紙に変えてもらえませんか?」
にこやかに微笑いながら『その素麺の箱の値段込みで、5000円以内で』と財布から提示された条件をつけるマサオミの顔を見て、
「…はい。少々お待ち下さいませ」
怪訝そうな顔を見せる事はなかったが、半拍遅れて返事を返した店員は、マサオミから素麺の箱を受けとると、カウンター奥へとすぐさま引っ込んでしまった。
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