――――少しばかり涼しくなった夏の昼下がり。
「…夏目よ」
「何だよ先生」
「先刻から一体何を読んでいる」
「本」
「見れば判るわ」
「じゃあ何だよ。俺は読むのに忙しいんだ」
「それ、『よく効く妖怪の祓い方』とか書いてないか?題名」
「流石ニャンコ先生。人間の字も読めるんだ」
「馬鹿にしているのかそれは」
「いやいや。ニャンコ先生だって以前言ってたじゃないか。小物妖怪くらい、自分で吹き飛ばせるようになれって」
「…む。確かに」
「だから勉強してるんだよ。そうしたら、どっかの大福化猫に寝ぼけてうっかり喰われかけても、遠慮なく尻尾の毛を毟れるからな」
「…何か今、聞き捨てならない科白を聞いたような気がするが」
「だって先生、前言ってたじゃないか。自分は人を喰う系の妖怪だって」
「うむ」
「…できればそこは肯定して欲しくなかったんだけどな、先生」
「なら、代わりに七辻饅頭で我慢してやる。買ってこい」
「何でそんなに偉そうなんだよ、この似非招き猫」
――――何気ない遣り取りもまた、過ぎ去りし日常の日々。