++ Cristall Welt ++






見上げた所にあるのは…何?

『病室の天井。』

…他には?

『窓の外に広がる、青い「空」。』



『…他には…何もなかった。』




+ + + + +





いつも、何時も、窓の『外』を見ていた。

…それが唯一僕に許された、外の世界を知る方法だったから。





いつも、何時も、窓の外に何処までも広がるスカイブルーの『空』を見ていた。

けれど、ベッドに縛り付けられた僕から見えるのは、

窓の縁で区切られた、硝子越しに見える

限りなく狭い『空』。

…それでも、自由を奪われていたあの頃の僕にとっては、何よりも憧れた世界だった。





外の世界に出た事が無い訳じゃなかった。

…けれど、あの時の僕は、自分一人で自由に動く事が出来なかったから、

滅多に出る事が出来なかった外の世界に尚更憧れたのかも知れない。

『…あの青い空の下では、自分と同じ年齢くらいの子供達が

元気に遊んでいるんだろうな…。』

同じように生まれて、同じように生きてきた筈なのに、

如何してこんなに自分を取り巻く環境が違うんだろう?

僕は病室に囚われ、誰かの手を借りなきゃ歩く事すら儘ならないのに、

如何してあの子達はそうじゃないの?



如何して?

如何して?

…如何して…?



――――そう思う度に、自分の存在が空虚になった。






いつも、何時も、窓の外の空で少しずつ動いて、形を変えていく『雲』を眺めていた。

変化に富んだその世界は、この瞬間にでも姿を変えて、

二度と戻らない『時』を形作っていく。



昨日は、曇り。

今日は、晴れ。

明日は、雨。



誰が決めたのかも判らない、誰に決められたのかも判らない、その不安定な世界。

…雲の動きだってそうだ。

風が吹かなきゃ動く事もないし、形を変える事もない、不安定なシロモノ。





青い空から降ってくる『光』が好きだった。

朝は全てのものを新しくするような、目映い純白の光を世界に投げかけ、

昼は穏やかな柔らかい光を降り注いで、ゆったりした時間をくれる。

夕方はすこしずつ、少しずつ、青かった空の色をグラデーションさせて、

幻想的な夕闇の色 ― 紫色の美しい光に姿を変え、その色を空に、世界に広げる。

――――その変化が、何よりも好きだった。





窓の外に見える『木漏れ日』が好きだった。

木の葉が風に揺らめく度に目に映る、そのエメラルドグリーンの色が

何よりも綺麗で。

青い空から降ってくる光は、全てのものに『色』を与え、

『影』という名の存在感を与える。

…でも、日の光の下に出る事が出来ない僕には、『影』が無い。





ベッドから滅多に動けなかった『僕』。

右腕か左腕のどちらかには、何時も点滴の針が刺し込まれていて、

寝返り一つ打てなかった。

与えられた本を読もうにも、腕に刺し込まれた点滴の針とカニューレが邪魔をして、

本のページを捲る事も儘ならず、逆に疲れてベッドに沈み込んでしまう。

…無理をすれば熱が出て、自分を苦しめるだけだった。






見上げれば、病室の天井が広がる。

真っ白なその天井は、僕に何も言わなかった。

ただ、『僕がこの病室(へや)に居る』という事を再認識させるだけ。

外の世界に憧れても、滅多に叶わなかったその望みと、空虚な自分。



『Was ist die ”herrliche Welt”………? 』













…でも……、

『今』は違う。



今は君達が僕の側に居て、空虚だった僕の時間を創ってくれる。

いつも何時も側に居て、ずっと僕を護ってくれてる。

…最近は、「護られてばかりで、僕は何もしてあげられない」

って、落ち込む事もあるけど、

でも反面、その悩みはあの頃の――――死の淵を彷徨っていた頃の自分からは、

到底想像がつかないくらい、贅沢で幸せなものなんじゃないかなとも思ったりもする。





『君達と出会えた事』。――――それだけじゃない。

今まで、僕と出会った事がある人達全てが、『僕』の『世界』を形作っている。

…例え、それが自分の嫌いな人であったとしても、街ですれ違っただけの人達だったとしても、

ただの原石だった『自分』を形作り、整え、研磨する役割をしてくれてる。



特にあの一年間は、狭かった僕の世界を広げて、更に変えてくれたと思う。

今まで一度も会った事がなくても、自分を知ってくれて、認めてくれて。

…理解してもらえるのが、本当に嬉しかった。

沢山の国の人達と出会えて、とても…嬉しかった。
だから、その『出会えた奇跡』をずっと大切にして 『生き』行き たい。







自分の存在がある事。

誰かが自分を見ていてくれる事。

自分が、今、この瞬間を生きている事。



――――どれもが、自分の『世界』に繋がっている。

そしてそれは、自分の周りの人達の『世界』と、何処かでリンクしていく。





…今、横を通り過ぎて行った人だって、風だって、鳥だって、

何時か何処かでまた出会える。

だから、まだ、この『世界』に生きていたい。

まだまだ知らないもの、見た事の無い物だって、沢山あるはず。

――――だから、まだ、この『世界』に存在していたい。





+ + + + +





…今、見上げたこの『空』は、あの頃の『空』と同じ?

…今、この世界に広がる空の『色』は、あの頃の空の『色』と同じ?

答えは――――。







――――『空』を見上げれば、『 そら 』が『 ソラ 』まで続く。


















2002/10/30 Up.










2002.10.31. 『ミハエル同盟』献上作品。
ミハエル同盟

MIDI by “密かな祈り”
(C)LUNA “Blue Moon Rain