『俺が神になる』
その声がオルゴールルームに透き通るように響き渡ったその瞬間、目も眩むような光が溢れ出し、視界が光で満たされた。
「刹那――――!!」

…声の限りに叫んだ声は届かなかった。
魔界、地上界、天界――――全世界中を駆け抜けた光は、新たなる『ホシガミ』が望んだ“世界”へと、『変革』の時を迎えた―――…。









++   Promised Land ― 1 ++









セントラルランド・ダークパレス――――魔界を治める大魔王『ルシファー』の居城。
その城の“表面上”の最奥、大魔王の書斎――――正面最奥には専用の書斎机、後ろは一面ガラス、
そして部屋の両壁には分厚い魔導書が整然と並べられた、シンプルでも何処か威厳の感じられる書斎室。
書類に目を通し、大きな判を押して淡々と事務処理していく大魔王がいるその部屋で、
部屋の雰囲気に似つかわしくない、明るく幼い声が上がった。

「父様ー!」
「…何だい?」
「父様って、この魔界の“だいまおう”なんだよね?」
「あぁ」
「それじゃ、父様が“たいい”って言うのをしたら、ぼくが“だいまおう”になるの?」
「…それはどうだろうな?未来お姉ちゃんが次期魔王かも知れないぞ?」
「えー…」

…母親譲りの銀色の髪に、自分と同じ紅い瞳を持った幼い息子は頬を膨らませて、
側に伏せっていた大きな三つ首のキングケルベロスの首にその小さな腕を回して抱き付いた。
「ぼくじゃ、“だいまおう”にはなれないの…?」
「そういう意味じゃない」
悲しそうな顔をする息子の顔を見て小さく苦笑し、ルシファーは椅子から立ち上がると、
床に座り込んで此方を見上げる刹那の身体を抱き上げた。
「刹那がもっと大きくなって、未来お姉ちゃんよりももっと沢山の仲魔が出来たら、きっと大魔王になれる」
「ほんと?!」
「本当だとも。…刹那は私の息子だからな」
ルシファーの言葉を聞いた途端に表情が一変し、ぱぁっと花が咲いたように刹那が笑う。
そして、自分達の足元で控えているパートナーを見下ろし、
「クールは、ぼくが"だいまおう”になっても、ずっと側に居てくれる?」
「あぁ」
刹那を抱き上げたルシファーの足元に座り、2人を見上げていた刹那のパートナーデビル――――
――――蒼い毛色のキングケルベロス『クール』は、幼い主人(マスター)の質いにすぐさま返事を返した。


「…ところで、誰から大魔王の話を聞いたんだ?」
刹那を床へ抱き下ろしながら、ふと気になって訊ねてみる。
オリジナルの刹那の『魂』の半分と、ルシファーの『力』で姿を保っている“今”の刹那は、『ラグナロク』以前の記憶が全く無い。
何より、つい数ヶ月前に漸く目覚めたばかりの幼い息子は、ラグナロク以前とは違って
セントラルランドから離れられない為に、魔界の事など殆ど知らないのが現状の筈。
「えっとね、ゼットお兄ちゃんと、配達屋のお兄ちゃん」
『あいつらか…!』
脳裏に『あいつら』の姿が浮かんだ途端、苦渋の表情を一瞬垣間見せたルシファーだったが、
『…父様?』と不思議そうに此方を見上げる刹那を見て、直ぐにしゃがみこみ、刹那と視線を合わせて『何でもない』と微笑った。




<UP:04.1.18>








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