風の神殿を散々迷い捲った末に漸く外に出れた時、扉のすぐ横で、俺達が出て来るのを待っていたらしい高城と出会った。









**  街灯街 **









「やぁ」
そう言って、いつもにっこり笑う彼。
神出鬼没・正体不明。一本に束ねた長い緑の髪。
外見年齢は俺と大差ないように見えるくせに、着ている服は子供じみた―――いや、俺も子供だけど―――怪獣服。
…何処からどう見ても怪しい。
強いて言うなら、何時も何時も微笑んでいて、先の読めないその微笑みも何だか怪しい。

先日カラマンドの街で会った時は無償でデビホンをくれたし、会う度に色々助言をくれたりして、
状況がよく飲み込めない俺としては、その助言はとても有難い。
…が、ふと思う事がある。いつか、その代償を支払わねばならないのではないかと。
何より、本当にこの少年の言う事を聞いていても良いのかと。
…けれど、何時までもそんな事を考えている時間は無かった。
何としても、地上界――――原宿の病院で眠り続けている翔を助けなければならないのだから。




暫く会話を交わした後、高城は教えてくれた。
『松明が消えている柱の後ろを調べてみなよ』と。


「…確か『松明が消えている柱の後ろ』だったよな」
「戻るのか?将来」
再び神殿の内部へと足を進めようとする俺を見上げながら、クレイが訊ねてくる。
「戻らなきゃ前に進めないだろ?」
「でも、この神殿に入った時に見た廊下の何処にも、松明が消えているところなんて無かったぜ?」
「クレイが見落としただけかも知れないだろ?もう一回ちゃんと調べようぜ」
そう言って、俺達はもう一度、風の神殿の内部へと足を踏み入れた。

――――それから数刻後。
「…此処しか『松明が消えている場所』は無いみたいだな…」
先の見えない回廊、行き止まりの廊下。方向感覚が完全に失せるほど風の神殿の中で迷い、
途中で出合ったデビルには交渉の甲斐もなく、悉く襲われた。
ゼイゼイと肩で息をする将来の横には、マスターと同じくデビルから遁走してきたクレイの姿。
「…でもさ、将来、此処って……」
「柱の後ろを調べろって高城が言うから態々(散々迷いながら)戻ってきたのに、肝心の柱の後ろには何も無いじゃねぇか!!」
高城に騙されたぁぁぁぁぁ!!!!!!と頭を抱えて苦悩するマスター―――将来―――を見て、溜息を吐いたクレイは、
「この柱の後ろに何があったのは知らないけど、ナタナエルかハーミルが片付けたのかも知れないぜ?」
「あ、そっか。その可能性もあるよな!んじゃ、ナタナエルの所に戻るぞクレイ!!」
つい数秒前まで深刻そうな雰囲気をその辺に漂わせ、頭を抱え込んでいた将来は、
クレイの言葉にぱっと期待の表情に変わり、即行でナタナエルの部屋へと走り始めた。

…誇り高きキマイラのマスターである葛羽 将来。
この「思いつき」に近い楽天的な行動及び思考パターンが、時に周りを驚かせる彼の長所であり、短所でもあった。




そして数分後。
ナタナエルの部屋に全速力で駆け戻った2人は、凄まじい剣幕でハーミル達に問い質したものの、当然何の収穫もなし。
大慌てで高城の居た神殿の入り口に走ったが、神出鬼没の浅黒い肌の少年の姿は、もう何処にも無い。
「高城の野郎…っ…!」
「俺達を騙しやがったなーーーーーーー!!!!!」





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「…将来達、大丈夫かな…?」
フェニックスであるレイを従え、デビライザーを握り締めたまま、嵩治は魔界の空を見上げてポツリと呟いた。
「心配ないわよ嵩治。馬鹿はしつこく生き残るか、あっさり死ぬかのどちらかだから。
…そうね、あの2人の場合は後者かしら?」
「将来達に死なれちゃ困るんだけど…レイ…;」





…行き詰まったデビチル一行が居る処とは遠く離れた地でエンチルコンビが噂する中、
風の神殿の中で再び迷った―――一体幾度目の迷子だろうか―――デビチル凸凹コンビが次のステージに進めるのは、一体何時になることやら。




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