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Metamorphose ― die Vergangenheit−eins +++
…今から6年程前になるだろうか。
火渡の実家に住んでいた頃、父の書斎にあったガラスケースの中には、
ビットチップの外された、傷や汚れが少し付いた、青い色のベイが沢山並べられていた。
その中で唯一つ、他のベイよりも一回り小さく、HSが搭載された青いベイには、
紅く気高い鳳凰の宿ったビットチップが取り付けられていた。
照明に照らされて、蒼銀色に輝くそのベイをもっと近くで見たくて手を伸ばすと、
側に居た母が俺の手を押さえて首を振った。
『これはお父さんの大切な宝物だから、触れてはいけないわ』
…そう諭されても、如何しても触れてみたくて、駄々を捏ねては母を困らせた。
その夜、帰宅した父へ頼み込んで、あの青いベイを見せてもらった。
手の中で銀色に輝く青いベイは、矢張り他のベイと同じように少し傷が入ったり、汚れていたりしたけれど、
ビットチップに浮かび上がる朱雀の姿は、まるで今にもそこから抜け出て来そうだった。
そして、その後で父とベイバトルもしたけれど、矢張り勝つ事は出来なくて。
朱雀の宿った青いベイと、何も宿っていない自分の青いベイ。
…両者の違いは『ビットチップの聖獣』のみ。
悔しくて悔しくて、『父さんが勝ったのは朱雀の所為だ!』と叫んだら、
父は『…これなら良いか?』と苦笑しながら両者のビットチップを付け替えてくれた。
…再度行った父とのベイバトルは、又も俺の負けだった。
悔し涙を堪えながら拾い上げた自分のベイのビットチップには、
バトル前には確かに描かれていた朱雀の姿は無くて、
代わりに朱雀は父のベイのビットチップへと姿を現していた。
ベイバトル中にお互いのビットチップが入れ替わる事など在り得ない。
…朱雀は俺ではなく父さんを選んだ。
ビットチップを入れ替えるだけでは、ベイに聖獣は宿らない。
…如何して俺のベイに朱雀は宿らないのだろう。
必死で考えて、それでも納得できる答えが見付からなくて、
アタックリングが掌に食い込むほど強く握っても、涙は止まらなくなって。
ベイバトルに負けた事で大泣きする俺の頭を撫でながら、父は言った。
『その悔しさを忘れるな。負けても決して立ち止まるな。
お前が前に進む事を止めなければ、お前は絶対に朱雀に会える』
…あれから3年。
記憶が定かでなくて、いつ出会ったのかはもう覚えていないが、
何時からかいつも何かと一緒だった幼馴染ことライバルのマコトには、今の所無敗を誇っている。
「ゴウ!!今日こそお前に勝ってやる!ドラグーン!!」
…父の助言を受け入れて、只管前を見据えて突き進んできたこの3年。
朱雀はまだ俺の前に姿を現さない。
でも、俺が前に進む事を止めなければ、いつかきっと出会うことができる。
「マコトには絶対負けない!!ドランザー!!」
…いつか、きっと。
<UP:05.2.19/2.24>